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第72回 上通商店街と電子マネーEdy(エディ)[top]

                        2004年5月14日発行
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国経館  上通商店街と電子マネー  メールマガジン    No.135
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みなさん,こんにちは.マクロ経済学を担当している笹山です.

このメールマガジンは国際経済学科のメールマガジン「国経館」の1つとして,
国際経済学科のすべての学生に配信されています.

今回は,熊本市の上通商店街の話題です.

マクロ経済学のメールマガジンとしてはNo.72です.
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【第135号】 上通商店街と電子マネー

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熊本城に向かって伸びる通り町筋.その中を路面電車がゆったりと進みます.
その通り町に向かい合うように大きなショッピングアーケード街があります.
その1つ熊本城に向かって右手に位置するのが上通(かみとおり)商店街.そ
れに対峙するかのように左手にあるのが下通(しもとおり)商店街です.下通
商店街をさらに進むと新市街商店街になります.上通から下通に連なる一帯が
なんといっても熊本市のショッピング街の中心地です.

上通商店街は115年の歴史をもつ伝統あるショッピング街ですが,商店街を
支えているのは多くは4代以上にもわたって連綿と商人の志を受け継いできた
熱き心と進取の精神に富んだ商店主たちです(注1).彼らが2003年の1
0月に「電子マネー」を商店街に本格的に導入したのです.

(注1)上通商栄会編『街は記憶する』上通新書 2004年

これまでにも東京の渋谷などで電子マネーの「実験」と称する取り組みは何度
か行われてきましたが,それらはあくまでも導入のための試験的試みであり,
期限を区切ったものであり,かつそれらはその後ほとんど忘れさられた存在に
なっています.「実験」はほとんど失敗したのです.

電子マネー導入の立て役者である上通商栄会会長の泉冬星(いずみ・とうせい
)さんは,「商店街の活性化のイベントの一環として何かをやろう」というこ
とで電子マネーに目をつけたとのことですが,導入から半年ほど経過し,まず
は順調に進展しているようです.「上通商店街は,電子マネーを本格的に導入
した日本で最初のショッピングモール」というタイトルを得ている所以です.

『熊本日日新聞』(通称,熊日(くまにち))の記事を紹介しておきましょう.

『熊本日日新聞』 2004年2月3日:
電子マネー「Edy」 上通商店街で予想上回る出足
http://kumanichi.com/news/local/main/200402/20040203000336.htm

「カードに事前に入金した金額の範囲で現金を持たずに買い物ができる電子マ
ネー「Edy」(エディ)のサービスを,昨年(2003年)10月に導入し
た熊本市の上通商店街.予想を大幅に超える額の入金があるなど,全国初の“
電子マネー商店街”として順調な出足だ.現在,飲食や衣料品,書店など73
店舗で利用可能.「上通に続け」と,ほかの商店街でも導入の動きをみせてい
る(抜粋).」

2004年6月からは下通商店街が電子マネーを導入し,その後は新市街商店
街が続く予定になっています.

上通商店街と下通商店街はよい意味でのライバル同士でもあるのですが,地方
都市によく見られる2大勢力の対立という構図はこの2つの商店街にはあては
まりません.互いに切磋琢磨しながら協力して商店街をもり立てていこうとい
う人たちによって運営されています.

■上通商店街の導入したエディの特徴

上通商店街が導入した電子マネーの特徴は,全日空のANAカードと電子マネ
ー・エディを組み合わせたカードを導入したことです.全日空に限らず航空会
社はマイレージというポイントサービスを実施しています.利用した搭乗距離
に応じてポイントが発行され,一定のポイントがたまればそれで航空券などを
購入できます.この全日空のマイレージポイント1万マイルをエディカードで
は1万円と換算して,商店街での買い物に使うことができます.1万マイルは
熊本−羽田で9往復に相当します.逆に200円の買い物で1マイルがたまり
ます.商店街としては,マイルから換算された金額が商店街での買い物として
使われ新たな需要を生むというメリットがあります.全日空としては顧客を囲
い込むことができるという利点があります.ただし,マイルをエディで利用す
る顧客が増えることは,その分は全日空の負担(サービス券と同じで,ポイン
トサービスは発行者にとっては負債です)の増加になるので同社にとっては痛
し痒しです.乗客増加のプラス面が大きいという経営判断の上で行っているに
は違いないとは思いますが.

お店のレジ横にあるエディカード読み取り装置は月1000円のリースで,こ
れは各商店が負担します.さらに,各商店はエディ利用の取引ごとに一律4%
を手数料としてエディの運営会社であるビットワレット社に支払うことになっ
ています.手数料の支払いはクレジットカードと同じような性質です.クレジ
ットカードの場合は店の形態に応じて手数料は異なっています.その分,ビッ
トワレット社は,同社内のサーバでエディがらみのデータ管理や決済処理を請
け負っています.

ANAマイレージクラブEdyカード:
http://www.ana.co.jp/amc/edy/main.html
マイルをEdyに交換する:
http://www.ana.co.jp/amc/edy/edyexchange_fr.html
マイルからエディへの交換は,インターネット接続して,カード読み取り機パ
ソナでエディカードにチャージするか,空港やANAホテルズに設置してある
ANAWeBKIOSKという専用端末でエディカードに入金します.

■エディを使うには
上通商店街が導入しているエディカードに沿って説明します.まずエディ機能
を搭載したANAカードを全日空に申し込んで作っておく必要があります.す
でにANAカードを持っている人でもエディ機能がついていない場合はエディ
付きのカードを再発行してもらう必要があります.エディ付きANAカードを
持っているだけでは電子マネーとしては使えません.2番目には,エディカー
ドに現金を入れます.チャージ(charge)するといいます.上通商店街には3
カ所(同仁堂,大谷楽器,ハヤカワスポーツ)エディカードに現金をチャージ
する機械(エディ・チャージャー)が設置してあります.この機械でエディカ
ードに現金を追加します.エディカードには最大で5万円まで入れることがで
きます.現金をチャージすると「シャリーン」という音が鳴り,入金の利用明
細シートが機械からでてきます.これでエディカードは「電子財布(
electronic wallet)」になりました.ちなみに,2003年10月から20
04年4月までに,上通商店街のチャージャーに入金された現金は約1500
万円にのぼっています.この金額がすべて商店街で使用されたとは限りません
がかなりの部分は支出されたものと思われます.3番目にはエディカード読み
とり端末を設置してあるお店で買い物の支払いにエディカードをいよいよ使い
ます.従来の接触型カードであればカードリーダーをこすったりする(swipe
a card)必要があったのですが,非接触型のエディはカードリーダーにかざす
だけでよいのです.支払いが完了すると「シャリーン」という音がします.同
時に購入した商品支払いのレシート(ご利用明細)が発行されます.エディカ
ードの残高がなくなったらチャージャーでカードに入金します.何度でもチャ
ージできます(re-chargeable).

利用明細(入金の場合)        利用明細(支払いの場合)
日付                 日付
Edy入金   Y3,000          Edy支払   Y1,890
取引後の残高   Y          取引後の残高   Y
Edy番号  **** **** **** ****    Edy番号 **** **** **** ****
Edy取引連番  *******        連番  *******
カード取引連番 *******       カード取引連番 *******
端末取引連番  *******       端末取引連番  *******
端末番号    *******       端末番号    *******
上位端末ID   *******       上位端末ID   *******
(注)******* の部分は番号が表示されます.

熊本市,上通り商店街:
http://www.kamitori.com/
Edyカードの説明:
http://www.kamitori.com/event/edy_campaign.html
2003年10月にエディ導入
上通商店街160店舗のうち約70の商店がエディカードサービスを始めてい
ます(2004年4月時点).エディサービスを実施しているお店の入り口に
はエディのロゴマークが貼ってあるのでわかります.

■エディ(Edy)とは

エディ(Edy)についてその基礎を簡単に整理しておきましょう.EdyのE,D,
Yはそれぞれ,世界の3大通貨,E=Euro,d=Dollar,y=Yenを念頭にネーミング
されたと言われています.エディとは「ビットワレット社が運営するプリペイ
ド型電子マネーサービス(prepaid electronic money using contactless IC
card technology)」の名称です.ビットワレット社は2001年に設立され,
主な株主はソニー,NTTドコモなどです.

エディカードの技術を支えているのがフェリカ(FeliCa)という名の非接触型
ICカード技術です.「非接触型(contactless)」という点が重要です.
FeliCaはソニーが開発した技術です.フェリカはJR東日本のスイカ(Suica
)や香港で広く普及しているOctopus Cardなど鉄道やバスのIC乗車券として
すでに広く使われています.非接触型の利点を生かして,改札口でFeliCaカー
ドが入った財布をかざすだけで通過することができるのです.処理スピードの
速さがFeliCaの大きな特徴の1つです.2004年1月には,ソニーが60%,
NTTドコモが40%出資して,フェリカを推進するフェリカネットワークス
社がに設立されています.

エディは様々なタイプのカードに電子的な支払い機能を追加させる技術です.
上通商店街が導入したエディは全日空の会員カードANAカードにエディを組
み込んだタイプです.これはメンバーシップカード(membership card)にエ
ディを組み込んだ形態です.その他エディカードの形態としては,クレジット
カード,ポイントカード(例えばマクドナルド),身分証明書(社員証,学生
証,ID card)との組み合わせがあります.今後は,携帯電話(cell phone,
mobile phone)や銀行のキャッシュカード(みずほ銀行や東京三菱銀行が準備
中)などにも組み込まれていくことになっています.

電子マネーエディ:
http://www.edy.jp/
エディ新着情報:
http://www.edy.jp/common/news.html#news_20040402_01
エディが使えるようになったお店の紹介が掲載されます.

エディが使えるお店一覧(全国の):
http://www.edy.jp/about/area/index.html

ビットワレットについて:
http://www.edy.jp/company/
エディを運営しているのがビットワレットで2001年設立.アドレスも当初
のビットワレットからエディに変更しています.電子マネーエディの決済を行
う会社.

エディ関連用語集:
http://www.edy.jp/common/glossary.html

電子マネーエディ,am/pmジャパン:
http://ampm.jp/service/edy/

・フェリカネットワークス:
http://www.felicanetworks.co.jp/index01.html (トップページ)
http://www.felicanetworks.co.jp/contents/press040203.html (業務内容)
ソニー60%,NTTドコモ40%出資で2004年1月設立.FeliCaはソニー
の開発した非接触型ICカード技術.携帯電話に内蔵してエディサービスを実行
する

CNET Japan:ケータイがついに財布に:NTTドコモとソニー,共同で新会社を
設立(2003/10/27):
http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000047668,20061619,00.htm

Felica(フェリカ)って何なのさ:
http://hp.vector.co.jp/authors/VA006094/iccard/felica/

ソニーによるFeliCaの紹介:
http://www.sony.co.jp/Products/felica/index.html (トップ)
http://www.sony.co.jp/Products/felica/contents02.html (概要)
http://www.sony.co.jp/Products/felica/contents04.html (事例紹介)
http://www.sony.net/Products/felica/contents02.html (概要,英文)
http://www.sony.net/Products/felica/contents04.html (事例紹介,英文)

・エディ導入の例

新宿タカシマヤ2004年4月14日からエディ導入:
http://www.takashimaya.co.jp/shinjuku/
http://www.shopbiz.jp/contents/IC20040415/609_013.phtml

愛知大学がフェリカを採用(2004年2月から):
http://www.aichi-u.ac.jp/asp_pub/ftpup/TOPIC211/iccard.htm

福岡大丸エディ導入(2003年8月):
http://www.daimaru.co.jp/fukuoka/

英文情報としては,
Electronic money
From Wikipedia, the free encyclopedia.
http://en.wikipedia.org/wiki/Electronic_money

Octopus card
From Wikipedia, the free encyclopedia.
http://en.wikipedia.org/wiki/Octopus_card

Electronic Money, or E-Money and Digital Cash:
http://www.ex.ac.uk/~RDavies/arian/emoney.html

■電子マネー・エディでの決済
電子マネーエディの決済の仕組みは次のように図解することができます.エデ
ィカードのシステムを担当しているビットワレット社は,電子マネーの決済サ
ービスを担当しているので,事実上「銀行」の役割を担っているとみなすこと
ができます.

ビットワレット社     ←   Edyチャージャー,カード発行会社
  (決済)                    (ANAなど)
 ↓支払 ↑4%の手数料       ↑ 現金入金

  商  店   ← Edyで支払  消費者(Edyカード)

■エディのメリットとデメリット

エディは最初は少額での支払いを目的に作られた電子財布であるため,小銭が
いらない.店頭での支払い処理がスピーディである等のメリットが謳われてい
ます.上通商店街が導入したANA・エディカードの最も大きなメリットは全
日空のマイレージサービスと連携させたことでしょう.全日空をよく利用する
方はマイレージポイントに応じて買い物ができるからです.それによって商店
街も潤うことができるのです.

現金での買い物との比較でエディのデメリットを指摘しておきましょう.例え
ば上通商店街のある文房具点は従来から独自のポイントサービス券を発行して
います.サービス券を集めればそれと同等の金額の買い物ができます.ところ
がエディで支払うと,残念ながらこのサービス券はもらえません.この文房具
店はエディでの支払いにはビットワレット社に買い物金額の4%の手数料を払
うので,さらにサービス券は払えないという理由だと考えられます.ただし一
般のお客にとっては現金で商品を買えばサービス券がもらえるのにエディだと
もらえないというのではエディでの支払いに躊躇せざるをえません.文房具店
に限らず,従来店独自のポイント券サービスを発行していた商店にとっては同
じような問題が指摘できます.

エディカードを紛失したら,その補償はされません.エディカードは「電子財
布」ですから,エディカードを紛失することは,現金入りの財布をなくしたこ
とと同じことになってしまいます.落としたらまず戻ってこないものとあきら
めなくてはなりません.クレジットカードのように不正使用を補償する制度は
エディにはありません.そのためにエディカードに入金できる金額の上限が5
万円と設定されているのです.

現在の上通商店街でエディが使えるのは商店街全体の約半分強のお店です.今
後はより多くの商店がエディのサービスに参加することが望まれます.上通商
店街の向かい側にある熊本最大の百貨店ではまだエディは使えません.私がよ
く利用するスターバックスも独自のカードを使用していて,エディを使えませ
ん.さらに熊本のバスや市電も従来のバスカードを発行していてエディは使え
ません.使いたいお店で使えるようになっていくことが必要でしょう.

■エディの競争相手

全日空がエディと組んで航空旅客の囲い込みを進めていることに危機感をもっ
た日本航空グループは,JR東日本と組んで同じようなサービスを始めること
を発表しました(日本経済新聞,2004年4月22日付け記事).まだサー
ビスの具体的な内容は確定していないようですが,エディとほぼ同じようなサ
ービスを展開するようです.エディとスイカが併存していくのか,あるいはど
ちらか一方が「デファクトスタンダード」となるのか,注目していきましょう.

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       ANA・エディとJAL・スイカの比較
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            全日本空輸    日本航空システム
マイレージ会員     1000万人   1590万人
マイル提携先      250社     350社
            4万5000店  2万2000店
電子マネー機能の対象    標準化    JALカード会員
                     (122万人)
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             エディ      スイカ
運営会社        ビットワレット  JR東日本
発行枚数        380万枚    831万枚
利用可能店舗      約3700店   約200店
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(出所)日経新聞 2004年4月22日

■まとめ------------
・熊本市の上通商店街は2003年10月に電子マネーのエディ利用を開始
・上通商店街は,電子マネーを本格的に導入した日本で最初のショッピングモ
ール
・2004年6月には下通商店街もエディを導入し,熊本市の2大ショッピン
グモールは電子マネーの街になる.
・上通商店街の電子マネーは,ANAカードにエディを組み込んだタイプ.
・全日空のマイレージポイント1万マイルを1万円に換算して商店街で使用で
きる.
・エディカードには専用機械で何度でも入金可能.蓄えることができる上限は
5万円.
・エディカードにはFelicaという技術が組み込まれている.
・Felicaは今後携帯電話や銀行のキャッシュカードにも組み込まれていく予定.
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(注意)後日サイトにアクセスした場合,サイトの構成に違いがでてきたり,
URLが変更になっている場合がありますので,了解してください.
(アクセス日)2004年5月13日

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【Q & A】熊本市の上通商店街が導入した電子マネーは?

     → エディ(Edy)

【今回のサイト】 電子マネーエディ:
         http://www.edy.jp/
         ソニーによるFeliCaの紹介:
         http://www.sony.co.jp/Products/felica/index.html
         Electronic Money, or E-Money and Digital Cash:
         http://www.ex.ac.uk/~RDavies/arian/emoney.html

【評価】★★★
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【国経館アーカイブ】 http://groups.yahoo.co.jp/group/kokkeikan/
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【発行】 熊本学園大学 経済学部 国際経済学科
【著者】 笹山 茂
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Copyright 2004

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