

卒業生
クマガクフォーカス KUMAGAKU
FOCUS
唯一無二の技術を光らせ
「靴磨き」で世界に名を轟かす
ボストン・シューシャイナー株式会社
シューシャイナー(靴磨き職人)
西上 悦弘さん
Nishigami Yoshihiro
2014年3月
経済学部 国際経済学科 卒業
1991年8月、熊本市生まれ。熊本県立東稜高等学校出身。大学卒業後、2014年に福岡市で、ホテル宿泊者向け靴磨きサービスを行うボストン・シューシャイナー株式会社立ち上げに関わり、靴磨き職人としてのキャリアをスタート。フランスの名門ブランド「SAPHIR」より九州で唯一、最上級資格者に認定。2024年3月には「World Championships of Shoe Shining 2024」で優勝。
学生生活で
「好きなこと」を探した
2024年、ロンドンで開催された「World Championships of Shoe Shining 2024(靴磨き世界大会)」。世界各地の予選を勝ち抜いたシューシャイナー(靴磨き職人)が技術を競うこの世界大会で、1人の日本人が優勝した。本学経済学部を卒業した西上悦弘さんだ。現在は福岡市薬院にアトリエを構える靴磨き専門の会社「ボストン・シューシャイナー株式会社」に所属し、唯一無二の技術で革靴に輝きを与え続けている。彼が靴磨きの世界に入ったきっかけは、大学生活で得た経験のなかにあった。
子どものころから海外に興味があり、高校時代も国際コースで語学を中心に学んでいた西上さん。「英語を学ぶだけではなく、英語をいかして広い世界を学びたい」。そんな彼の希望に合う国際経済学科があり、かつ交換留学制度が充実している本学への入学を志望。実家から通えるので留学や海外旅行費用を貯めやすい点も大きかったという。
2年次には学科のカリキュラムでニュージーランドへ1カ月間の語学研修へ。語学の勉強はもちろん、現地の文化や風習が大きな刺激になった。その後、長期休暇のたびにアメリカやアジア各国をバックパックで旅した。大学で世界を学び、世界各国へ飛び出してそれを肌で感じて、大学時代ならではの自由な活動をとおして自分の好きなこと、やりたいことを探していく、そんな日々だったという。
好きな「靴」をとおして
人に喜ばれることに感激
そんな西上さんにとって、靴は子どものころから特別な存在だった。母の影響もあり、靴を買うことは“特別な買い物”として大切にしていたという。年齢を重ねるにつれ、特にスニーカーへの関心が高まり、アルバイト先にも靴の販売店を選んだ。しかし、日々の接客を通じて、客が靴をあくまで消耗品として購入していく姿に、どこか物足りなさを感じていた。そんなとき、西上さんの靴好きを知る客の誘いで、ある企業へ靴磨きサービスに行くことになる。ここで初めて革靴に触れた西上さんは「最初は靴磨きを独学で学んで披露する感じでした」と振り返った。「整える」ことが好きな性格もあり技術は上達し、スニーカーとは違う革靴の魅力にのめり込んでいく。「革靴はリペア(修理)することを前提に作られているんです。つまり、ケアし続ければずっと靴のピークを保てる。西洋らしいものづくりの価値観を味わう日々でした」。さらに、靴を磨くことをとおして人々との交流が生まれ、喜んでもらえるという経験が、西上さんにも大きな喜びをもたらした。
日本初の業態に挑戦
靴磨きの鍛錬を積む
就活の際に「好きなことを仕事にしたい」との想いが捨てきれず、一般企業への就職に踏み出せずにいた西上さん。そんなとき、知人から福岡に靴磨き専門の会社を起業するという話を受け、シューシャイナーとして立ち上げに誘われた。会社勤めではない社会人生活のスタートに不安もあったが、「靴が好き」という気持ちを仕事にできることへの魅力が勝り、福岡でシューシャイナーとしてのキャリアをスタートさせた。
西上さんが大学を卒業した2014年に立ち上がった「ボストン・シューシャイナー」は、日本で類を見ない業態の靴磨き店。ビジネスなどで福岡のホテルに宿泊している人の靴を夜に預かり、一晩で磨き早朝に届けるという、ランドリーサービスの革靴版だ。「靴磨き」の認知度の低さに当初は苦戦したが、一つひとつ実績を積み重ねるなかで徐々に契約ホテルの数も増え、軌道に乗り始める。現在は福岡市内35ものホテルと提携、さらに大阪でも展開しているという。そして靴磨きの技術も磨き続けた。シューケア用品メーカー「SAPHIR」の研修を受け、靴磨きの最上級資格「シューケアエキスパート」を九州で唯一取得。そして冒頭で紹介した世界大会にも挑戦する。「実は2回目の挑戦でした。靴の輝かせ方など研究と鍛錬を重ねたことが報われました」
履く人を輝かせ
日常が豊かになる靴磨きを
西上さんが靴を磨く姿は、まさに神業。滑らかな手さばきで、ときには指を使ってクリームの量や磨き加減を繊細に調整しながら、みるみる鏡面のように磨き上げていく。その様が痛快で、革靴を磨く様子などをアップしているTikTokのアカウント(@boston_fuk_osa)のフォロワーは4.3万人(2025.4.24現在)にのぼる。「靴自体が主張しすぎず、履く人を輝かせるような磨きにこだわっています。そして長持ちするようクリームをしっかり浸透させるなどして、より良く革靴を普段使いしていただきたい、そのような想いを込めた仕事に徹しています」。実は同社の靴磨きの価格設定は比較的お手ごろで、これも、靴のメンテナンスやリペアを習慣にしてほしいとの想いの表れだ。昨年からは靴の修理や販売も自社で行うようになり、より客からのニーズに応えられる体制を整えた。「靴好き」から、「靴をとおしてお客さまのより良い暮らしに寄り添えることが好き」に意識が変わり、妥協なく技術を磨き続ける。西上さんが手掛ける革靴には、履く人への想いが輝きとして宿っている。
(2025年03月取材)
Memorial photo

在学中、サークルは経済学研究会に所属(左端が西上さん)

ニュージーランド留学では、現地の音楽などのカルチャーにも多く触れ、友人の輪も広がった

「World Championships of Shoe Shining 2024」決勝では、スイス人、中国人、西上さんの3人で技を競った。20分で片足分の靴を磨き、その過程や仕上がりが評価される審査だった

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