【教員が紹介する!おすすめの本】『戦後労働史からみた賃金〜海外日本企業が生き抜く賃金とは』小池和男著、東洋経済新報社 2015年

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2023.11.30

熊本学園大学商学部教授 今村寛治

 2019年に鬼籍に入られた小池和男先生の著作です。持論である「ブルーカラーのホワイトカラー化仮説」がベースになっていますが、一刀両断の文体がますます冴えています。「ブルーカラーのホワイトカラー化仮説」とは、欧米ではホワイトカラーが担当している標準化のむずかしい仕事を戦後の日本ではブルーカラーも担ってきたので、彼らの技能形成を促すような賃金(能力給)が必須であるというものです。

 最近、雇用システムを欧米の「ジョブ型」と日本の「メンバーシップ型」に分類する主張が流行っていますが、小池先生は批判的です。欧米のホワイトカラーはブルーカラーとはかなり違い、どちらかといえば日本の「メンバーシップ型」に近いのに、「ジョブ型」として一括りにするのは間違っているというのです。

 この点とも関連して、序章「既成観念の打破」での指摘は私たち研究者には頂門の一針というべきものでした。小池先生は「既成観念」という言葉を何度も使われるのですが、社会についての思い込みが事実認識を誤らせ研究の妨げになっていると嘆かれます。たとえば、前述の欧米のホワイトカラーとブルーカラーに関する誤解や、「日本は年功賃金だから欧米より遅れている」とか「日本でも職務給や成果給を導入しなければならない」といった言説です。つねに事実に基づいて議論することを心がけてきた小池先生らしい言葉です。

 本書はこれからの日本の経営(特に労務管理)を考えるうえで必読書といえます。おすすめです。

タイトル 戦後労働史からみた賃金海外日本企業が生き抜く賃金とは
著者名 小池和男
出版 東洋経済新報社 (2015/9)
ISBN 9784492261125

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