卒業生

クマガクフォーカス KUMAGAKU
FOCUS

日本とヨーロッパの懸け橋に
服作りを通して日本文化を世界へ発信

Studio Masachuka(スタジオ マサチュカ)
代表

森川 真彦さん

Morikawa Masahiko

クマガク人物伝

2007(平成19)年3月
外国語学部 英米学科 卒業

1982(昭和57)年10月、熊本市生まれ。熊本北高等学校出身。2004(平成16)年熊本外語専門学校卒業後、本学の英米学科へ3年次編入。シンガポールの日系企業に就職後帰国し、熊本市北区の(有)ベネローゾで洋服作りを学ぶ。2011(平成23)年にワーキングホリデーを利用してイギリスの縫製工場でマネジメントを担う傍ら、友人とオリジナルブランドを立ち上げ、2012(平成24)年に「Studio Masachuka」をオープン。

パイロットの夢断たれるも
海外を夢見て大学へ

 2023年(令和5年)2月。イギリスで開催された、国王および王室主催のアジア人コミュニティ向け祝賀会において、英国王チャールズ3世と対面した一人の日本人がいる。英米学科卒業生の森川真彦さんだ。イギリス・ロンドンで洋服の縫製や型紙製作を行うアトリエ「Studio Masachuka」を経営。刺し子など日本ならではの技術と文化をいかした縫製技術が評価され、UNIQLO EU(ヨーロッパ)のスタッフの修繕技術指導や、再販用のアップサイクル品の作製などを行っている。そのような活躍から、British Fashion Council (英国ファッション協議会)の代表として、前述の祝賀会にも招かれた。大好きな洋服作りの技術を武器に世界で活躍する森川さんだが、その大きな原動力となったのは、クマガクへの入学とそこでの経験だった。
 かつて森川さんは自衛隊のパイロットをめざしており、語学の専門学校から航空大学校への入学を志していた。しかし、肺気胸というパイロットとしては致命的な病気を患ったことで、幼少期からの夢を絶たれてしまい、途方に暮れたという。「せっかく英語を勉強したし、バックパッカーで海外を放浪するのも大好き。いっそ海外の大学で勉強したいと思うようになりました」。そこで知ったのが、クマガクの大学編入制度と交換留学制度。英米学科に3年次編入生として入学することになった。

交換留学中に見つけた
夢の原石

 大学に入学したことで、森川さんには新たな夢が生まれた。「漠然と、海外で起業したいと思うようになったんです。そこで他学部の授業を受講できる制度を利用して、経営学やメディア論など興味のある分野の授業を積極的に受け、中小企業診断士の資格取得もめざしました。勉強が楽しくて、図書館にもよく通っていましたね」
 そして、カナダ・カールトン大学で、念願の長期留学に臨んだ。約1年間の滞在中、夏休みにメキシコまで旅行することに。路銀を稼ぐべく、路上で習字パフォーマンスを行うと、作品が飛ぶように売れた。現地の人との交流も楽しく、新聞に取り上げられるほど話題となり、本当におもしろかったと振り返る。「自分が作ったものを通じて人と人が出会い交流することに、大きなやりがいを感じたんです。このネットワークを自分で構築できるのではないかと」。そこで、メキシコでデニムを仕入れてカナダに持ち帰り、和柄のカスタムデニムや漢字ペイントの商品を作って売り始めることに。「海外での“事業”も、洋服作りもこの時が初めて。クマガクでの長期交換留学で得ることができたこの経験が、今の私の原点です」

日本で磨いた技術を
イギリスで開花させる

 大学卒業後はシンガポールの企業に就職するも、「洋服作りで起業したい」という気持ちが高まり、半年と経たず帰国した森川さん。技術を学ぶために、熊本市にある縫製会社に入社した。「当時の自分は夢ばかり抱いて、プライドが高く、気持ちだけが前のめり。正直、縫製工場に3カ月も勤めれば技術も身につくと思っていたんです。でも、社長から『ごちゃごちゃ考えんでよか、黙って仕事ばしろ』と言われたことで、自分のなかのしがらみが消えて、服作りに没頭できるようになりました」。夢ばかり見て無下に過ごした日々を反省し、服作りを通して「一所懸命作る」ことを学ぶ過程で、森川さんのなかに服作りや仕事の“芯”となるものが生まれた。技術と心を磨く日々だった。
 そして2011(平成23)年に、ワーキングホリデーを利用してイギリスへ渡航し、縫製工場でマネジメント業務に就くことに。現地の縫製業の現実を目にする日々のなかで、自らのブランドと縫製スタジオ「Studio Masachuka」を立ち上げることになった。ここで森川さんがこだわったのは、日本の磨き上げられた縫製の技術や道具をいかした丁寧な仕事。現地の縫製業にはないこの価値観に惹かれたさまざまなブランドから、縫製を委託されるようになっていった。コロナ禍で和柄生地の布マスクを作ると、マスク文化のないイギリスでも多くの注文が舞い込み、累計で4万枚以上を販売するに至った。さらにその期間中に、糸やはさみ、そして刺し子など、日本製の縫製用品のオンラインショップも立ち上げる。

日本の丁寧な手仕事が
海外との懸け橋になる

 UNIQLO EUから声がかかったのは、そんな時だった。当初は新設される「RE.UNIQLO STUDIO(リユニクロスタジオ)」の洋服修繕サービスのスタッフ指導の依頼だったが、刺し子による着物製作、UNIQLO商品のアレンジなど仕事が広がった。日本の技術やデザインを使ってUNIQLOのほつれや汚れがある商品をアップサイクルし付加価値を高める仕事は、サステナブルに関心が強いヨーロッパで広く受け入れられ、現在は拠点を拡大中だ。「古典的な刺し子とモダンなデザインを融合させた“Sashiko”を意識した、独自性のある仕事に日々励んでいます」
 日本を出て13年、森川さんは今、自身の使命を「服作りを通した日本文化の発信」と捉え、日本とヨーロッパの懸け橋になるべく、世界を股にかけ仕事に邁進している。学生時代の自由闊達な学風と、地味でコツコツ取り組む縫製業という相反する2つを一緒にした『旅する縫製工』となるのが今の夢。「群衆から離れて一人になり、自分自身の目で世界を見て感じる、そんな経験ができるのは学生時代の特権であり、多様性が叫ばれる今の社会で大きな力になると思います。今の学生たちには、ものを見る視点を増やせる経験をたくさんしてほしいですね」

(2023年7月取材)

Memorial photo

留学中、メキシコ旅行先で行った、習字パフォーマンスの様子。現地の人との交流も楽しんだ

イギリス・ロンドンにあるスタジオを拠点にヨーロッパで活動

UNIQLO EUとコラボレーションした、リペアサービススタジオ「RE.UNIQLO STUDIO」

2023(令和5)年2月のアジア人コミュニティ向け祝賀会にて、英国王チャールズ3世と語らう森川さん

銀杏並木 460号

クマガク学園通信「銀杏並木」掲載号のご案内

このページの記事も掲載しているクマガクの学園通信。
大学の出来事や大学から今お伝えしたい事を特集しています。
バックナンバーもデジタルブックでご覧いただけます。